評価機関による講評 |
◇特に評価の高い点
1.理念を実現するための事業運営
法人の運営の理念には「基本的人権の保障・個人の尊重・自立支援・地域貢献・法令順守・規則遵守」について明記されている。このことを確実に実現するための事業運営が行われている。
職員が利用者の人格を尊重し,相手の立場に立とうとする基本姿勢を持ち,福祉専門職に求められる質の高いマナーを身に着けるための講習会や強化月間等が実施されている。利用者の一人ひとりの24時間シートが作成され,必要な支援を抽出し,個別支援計画に反映させ,これに基づきサービスが実施されている。事業計画には地域貢献の取組みが明記されており,法令遵守規程と法令遵守マニュアルが策定され,法人として個別職員の質問にも答える役割を担う法令遵守担当者を配置している。
2.人間形成とチームワーク形成を目的とした,充実した研修実施
法人として研修の目的を「福祉サービスを向上させるためには,全職員が,運営の理念,方針,基本的な態度をはじめ,事業計画について共通の理解と認識に立ち,役職員全体の資質及び技術の向上,チームワークの形成を目指す。」としている。
この目的を達成するために,法人全体の研修委員会が研修計画を作成し,年度ごとに見直している。研修は,課題研修(外部派遣研修・苑内全職員研修・新人職員向け介護技術研修・事業所内研修),苑内自主研修,苑外研修交流会という研修体系で計画され,効率的に進めるということも意識されている。
特徴的な研修の苑外研修交流は1泊2日で4回に分けて行われ,理事長・常務理事も参加している。職員が理事長・常務理事の話を聞いたり相談する機会にもなっている。
3.福祉サービスの向上と事業運営改善を進める職員による委員会活動
法人全体の『研修委員会』『身体拘束廃止・虐待防止委員会』『リスクマネジメント委員会』『感染症対策委員会』『介護力向上委員会』『接遇向上委員会』『機関紙・かにっこ編集委員会』『実習担当委員会』『業務改善管理委員会』『キャリアパス委員会』があり,各事業所の代表の職員で運営されている。この委員会に連動して,事業所でも各々の事業所の職員による委員会が運営されている。
法人全体の委員会は,研修や法人全体としての取組みの年間計画作成,マニュアルの見直し,実施状況を確認するための取組み(アンケート・事業所調査等),そして実施状況の評価を行う。事業所ごとの委員会は,法人全体の委員会の計画を実践する組織である。
委員会には全ての職員が何らかの形で関わって,職員の育成・教育にも大きな役割を果たしている。
◇改善を求められる点
1.中・長期的なビジョンを明確にした計画の策定
社会福祉法人ビーナス会は1995年7月設立され『高齢化率の高いこの地域で,事業を実施する以上は,援助を求める高齢者にはどんな形であろうが応えて行きたい。困った人には,できるだけ手助けしていきたいという素朴な方針を貫くことに心掛け』(20年のあゆみより)というビジョンのもと事業運営されてきた。評価のコメントに記載した通り,組織統治体制,経営管理機能は適切であり,公表されている決算書からは経営状況が良好だということが読み取れる。加えて職員の補充・育成も順調に行われている。明文化された中・長期的なビジョンがなくても,明確なビジョンの基に運営されてきたことがうかがえる。
現在,法人組織が大きくなり職員が増え,高齢者を取り巻く状況は困難にそして複雑になっている。ビーナス会が事業を継続・発展させることへの,社会的な期待や関心が高まっている。これらのことを鑑み,人材確保や管理職・リーダーの育成計画も含む中・長期計画を明文化するとともに,この情報を発信することが求められる。
2.家族への情報提供方法や,事業運営について意見を聞き家族同士での交流のできる場の設定
家族への利用者の状態の報告・連絡は適切に行われている。事業所の花見や夏祭り,敬老会などの行事への案内をしている。また,面会が滞ることのないよう家族が毎月来所して利用料支払うことにして,その際,本人の様子を説明し要望を聞いている。施設運営などへの要望を聞く機会として年1回家族へのアンケートも実施している。
日常的な情報提供のツールの情報紙は法人全体として作成されているが,情報掲載のスペースは限られている。事業所としての事業計画や事業報告を家族に情報提供するには至っていない。
運営推進会議に利用者家族の代表が参加し連携の機会が持たれているが,家族代表の位置づけが明確とはいいがたい。
今後,介護保険制度の改定時や,利用者の重度化や看取り期において,家族同士の情報交流や,事業所としての情報を提供することの重要性が増している。これらを行うことができる場,例えば家族会など創設する,事業所としての情報紙を作成するなどの取組みを期待する。 |